既に起きた未来を観察しよう(ドラッカー) ~その4 その言葉を佐渡島で検証してみる~

By gkmyhn, 2023年10月30日

051105更新:「その1 30年後は4万人に」に「補足①」を加えました。

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1980-1985年の資料を基に、今から35年前の1985年を基点として、30年前に「30年後はこうなるだろう」と思っていた佐渡島の状況。その帰結となる現在、この両者を比べてみることにしました。客観性をもたせるために、新聞連載して公になった昔の記事を検証の基になる資料としました。人口推計という手法で行う未来を知る作業、どこが活用できて、どこが使うには限界なのかご覧ください。

 

二つの検証

その1 当時の人口構造を観察し「既に起こった未来」として描いた姿と、その帰結となった今日を比較

昭和60年を基点とした人口推計を基にして、「グラフは語る 佐渡の人口」というタイトルで、正しくは29年ほど前に新潟日報で連載したことがあります。40年前の人口構造に因を発したものが、将来このように今帰結するだろうという内容が書かれています。そこで、当時の記事と現在の佐渡の状況を比較することで検証してみます。  ※本文中の新聞記事の画像が不鮮明の場合は、一連の綴りになっている別サイト(ここ)をご覧ください。

(1)30年後は4万人に

どの記事も、推計の最終年となる2025年(グラフ表示は平成37年)の数値が記載されています。国勢調査は2020年ですが、私の推計値は今月まで県が公表する推計値との誤差は0.5%前後で推移しいるため、ここでは仮に2025年の私の推計値と比較してみます。具体的には、昭和60年を基点にした各記事のグラフにある推計値(表示は平成37年)と、令和2年を基点にした人口推計の令和7(2025)年の推計値と比較することにします。

グラフにある推計値40,061人に対し、今の推計値は45,953人(ここ)です。推計値よりも5,892人多くなっています。誤差12.8%(※1)です。その2030年の推計値が40,607人ですから、人口減少を5年間分だけ改善したともいえるでしょう。私の推計は、昭和55~65年の生残率、移動率、出生率を使用しています。その何れか、又は全体が変化したことになります。この6千人弱の誤差は多すぎるとみるのか、40年間といえば社会に出た自分が定年を迎えようとするときの状況を知ることと同じ難しさなので許容範囲とみるかは皆様にお任せします。ただ、人口推計は「明日の天気予報をみて傘を用意する」方であれば、それ以上の確率となる手法でしょう。

※1 推計誤差については、別サイト(ここ)の項目「特徴」欄をご覧ください。

 

補足① 年齢階層毎の誤差率

右のグラフは、1985年国勢調査を基点にした人口推計値と2020年国勢調査の人口の年齢階層別の誤差を計算してみたものです。85歳以上で誤差が大きいことがわかります。掲載していませんが、女性の誤差が3,117人のうち1,386人44.5%が85歳以上の年齢で発生していました。この35年間で女性の長寿化が顕著になりました。

 

 

 

補足② 目的により異なる人口推計値

私の推計は、生残率、出生率、移動率を、当時の数値を使い計算するものです。社人研の推計は、将来おきるであろう変化を見込んでいます。また、行政の行うものは、「こうありたい」という目標を加味しています。当たるか当たらないかでいえば、私のものは先5年間に限れば2010年国勢調査時点で0.3%、2015年-0.7%、2020年-0.3%でした。社人研のものは、これまでは何倍かの誤差があり、佐渡市のものは人口ビジョンによると2060年人口で私の二倍ほどの目標人口でした。

企業の売上高を例にしていえば、私のものは昨年までの実績を将来に延長したに過ぎず、社人研のものは、景気や取引先の状況その他の変動要因を考慮したものす。佐渡島に限っていえば誤差は私の何倍かです。しかし、変化を考慮して将来をみることは普通なので、それは正しい誤差と思っています。なお、佐渡市のものは、それだけでは駄目からと社長が上乗せしろと命令し対策も考えた上での目標値ともいえるでしょう。

 

(2)若者全員が定着しても減

年齢別の流出入率のグラフの姿形は、40年前も今も同じです。ただ、最も流出する年齢の流出率は男女とも40%前後と右のグラフの50%台の数値より大きく改善しています。また、グラフにみる女性Uターン率は20%を超えていますが、2020年時点では15%と低くなっています。なお、全若者がUターンしても人口減少が止まらないのは昭和60年推計で指摘のとおりとなっています。

 

 

 

 

 

(3)老人は12年後に頂点、30年後には構成比4割

65歳以上人口の頂点は、グラフでは平成12年に22,202人とあります。実際は、平成12年23,149人、でもピークは17年23,514人でした。また、グラフでは2025年(表示は平成37年)16,941人とありますが、2025年には推計で20,564人です。3,623人の誤差ですが、これは非常に高い誤差となっています。また、高齢化率はグラフでは42.3%とありますが、実際値は2025年44.8%と当初の推計値より多くなっています。

このように高齢者に関する数値に私が思っていた以上の大きな誤差が生じていました。前述の長寿による生残率の差異が主な原因でしょう。

 

(4)介護「高齢社会」へ突入

被介護者数が令和2年で5,153人と右のグラフと大きく異なっています。前項の高齢者数の差異だけなのか介護認定と関係あるのかは調べてありません。

老齢人口のすう勢の中で、85歳以上が昭和60年当初の1,131人から5,131人、当初を100とした指数で453と大変高くなっています。

ここまでの検証では、高齢者の人数の大幅増加が当初との差異となっています。文中に記載したように長寿による生残率の差異が原因と思います。

 

 

(5)労働力 危うい企業の存続

20-64歳人口は2025年で19,595人の予定です。右のグラフの数値とは大きく異なります。「30年後に働き手半減」は間違いないようです。なお、前項で触れたように、被介護者は大幅に増えることから実際に働ける人数には大きな差異はないようです。

0-19歳人口は、左のグラフでは6,450人ですが、2025年の見込みは5794人と656人少ない状況です。この差異で大きいのは△465人の15-19歳人口で、以下△111、△253、そして0-4歳人口は△205人となっています。

タイトルの「危うい企業の存続」については、別記事で「人口と就業者の関係」(ここ)について記載しましたのでご覧ください。その内容は、「今日起きている人手不足」は、ここでいう働き手の減少という構造的要因もあると考えます。

 

(6)嫁不足 突出する未婚男性

タイトルが良くないですが、当時は、このような言い方が普通でした。お詫びします。

さて、本文にあるように男性5%、女性4%として計算の上でグラフを作成していました。令和2年国勢調査により計算した生涯未婚率は、私が計算したところでは男性30.2%女性14.5%です。あまりの数値の違いで間違いかと懸念したのですが、昔は5%前後のこともあったと確認しました。なお、生涯未婚率は年齢不詳者も加味しますが、上記の計算では加味していないので、数値に若干の違いがあるでしょう。

このように連載当時は、男女の人数を重視しましたが、今日では男女共に未婚率の高さが問題視さるようになったという違いが出てきました。

 

(6)移住 (7)産業 (8)夢の予測

新聞連載では、この三つをテーマに記載しましたが、いずれも提案を行っている項目です。このため今回の検証の対象から外します。興味ある方は各タイトル部分をクリックして連載記事をご覧ください。

 

(この項のまとめ)

以上のとおり、少しおおざっぱですが検証してみました。私の感想としては、「人口構造」はドラッカーの言葉どおり「既に起こった未来を観察」することで未来を知ることができると確信できました。そして、人口推計の手法は、未来で帰結するであろう今を観察するために重宝するツールと再確認できました。

ただ、経営でいえば、「企業の進む方向」を練る戦略はできるが、具体的な活動に結びつく戦術を今の段階で練るには想定していないことが発生する可能性が高くできないという結論です。なお、一人当たり数値や平均額を算出できるもの、例えば被介護者の出現率、医療給付、介護給付、品目別消費支出、税金などについては推計した合計表の下に欄を設けておけば自動計算できるでしょう。このような方法を使えば、問題や課題その他の想定範囲を広めることができるでしょう。

 

その2 40年後の人口と同規模の地域の観察

今から30年ほど前の平成7年に、「産業と生活の将来を考える実行委員会(両津商工会主宰)」が行った全国過疎調査事業に携わりました。

当時は、記憶が定かではありませんが「高齢化率が50%を超えると地域は崩壊する」といった書籍もあり、過疎にはゴールがあると考えていました。ところが、調査の結果は人口5万人の地域も、3万、1万、5千人の地域も言っていることは同じことでした。「田畑が荒れる」「イノシシが出る」「祭りができない」等です。つまり、より多くの人で行ってきたことができなくなり、より少ない人で行うことからくる大変さでした。 わかったことは、過疎にはゴールがなく、どこまでも縮小していく過程で起きる困り事、それを如何にしていくかの物語と思ったものです。

 

※この事業報告は令和8年に「よみがえれ古里 ~地域活性化の指標~」として新潟日報で11回の連載をしています。30年前と何も変わってないなぁ...という状況がわかります。興味ある方はご覧(ここ)ください。

この事業に携わつたときに思い作成したのが次のグラフです。これは、人口問題研究所(現在の社人研)が行った先々40年間の全国各市町村の人口推計、それを力づくで一枚のエクセルシートに取り込み、減少していく40年後の人口を基準にして、その多い地域から並び替えグラフにしたものです。

1810地域を取り上げたため重なり合っています。一本の線となって、どこまでも減少していく様子を列車の線路にたとえました。説明としては、グラフ内のメモ書きのように、例えば佐渡島の今の人口が減少していき40年後の人口(駅)に到着したときに、今の時点で佐渡の40年後の人口の地域は、自らの40年後の人口(駅)に向けて発車するとみます。

このときに思ったのです。どの過疎化する地域も同じような困る事を言っているのであれば、佐渡島の40年後の姿は既にあり観察することができるのではないか...と? 通常の先進地視察は、自分達と同じようなところを視察し頑張っている姿を参考にします。でも、最初に視察すべきところは、40年後の姿を今の時点で現わしている地域ではないか…と。何ができなくなり、何に困っているかを先に知り、そうならないための対策や取捨選択をするのが普通ではないかと思いました。

この検証はしていませんが、佐渡の40年後となる2060年に到達するであろう地域は、私の推計値が16,584人、社人研が19,789人、佐渡市が33,416人です。興味ある方は、佐渡の将来の姿を意識しながらこれらの人口規模の地域の生活や産業の様子をネットなどで観察してみてください。

(この項のまとめ)

もし、人口が同じ規模の地域であっても、生活や産業の全てが佐渡と同一ではなく将来の姿とは言えないという場合があるでしょう。その時は、佐渡の人口推計の合計表(ここ)に例えば、一人当たりの数値や平均値がわかる項目を加えて表を拡張するとよいと思います。例えば、被介護者の主柘植律、医療給付費、介護給付費、消費需要額、市民税額など多々あります。その項目が似ている地域をピックアップして、架空の地域を想定して将来の佐渡の姿とすればよいでしょう。後は、まず机上で地域を夢持てる地域にする試みとなります。

これまでは未来を語るときは人口の総数を言い、その中で困る個々のことをピックアップしてきました。此岸から彼岸をみると、まず問題点や課題だけが頭に浮かび暗い気持ちになるものです。しかし、先に人口推計で示した40年後の人数の地域は全国に幾つかありますが、その地域は今の佐渡より暗く、今の私達より希望のない地域ではないでしょう。先の連載を書いた頃にいつも思っていたことがあります。それは、当時の勤務先がある旧両津市の人口は18千人位でしたが、元気よさなどの勢いでは人口3千人余りの旧赤泊村に敵わないということです。

新聞のコラムで知った言葉があります。フランスの詩人のものを取り上げたもので、「湖に浮かべたボートをは後ろ向きで前に進み、そこには進んできた風景しか目に入らず進む先は見えないため不安に陥ることがある。でも思い切って振り返って進む先をみると安心できる場合が案外ある...と。まずは、問題点や暗さが先行する未来の行きつく先、そこの生活や産業などを更に詳細に描く作業があると安心できるかもしれません。その過程をワークショップ形式など行えば、何よりも参加者にとって過疎に対する漠然とした不安はなくなるでしょう。

 

2 Comments

  1. 野口忍 より:

    両津の野口です。ドラッカーの言葉から30年前の予想を検証結果を大変興味深く拝読いたしました。途中の努力したものとしないもので結果の誤差を産み出していると考えます。また、30年後、私も後藤さえも居ないと思いますが、誤差は生じているでしよょうね。
    例えば男性の未婚率は対策は打てないまま予想と同じく高い。人口は高齢者は減少し始めてますが団塊の世代が頑張り次第かと。働き手はITや通信も盛んになったり、世界遺産はともかく自然観光での少しは維持が可能性かと。今度ゆっくりお話させて下さい。

    • gkmyhn より:

      コメントありがとうございます。
       あまり人口構造の内容の比較はしたことがありませんでした。総数の違いは納得していますが、高齢者層において数の違いにはビックリしています。出生率、移動率の変化は余り考えられないので生残率かな...と思っています。佐渡市の人口ビジョンは2060年33千人ほどを目指していますが、2020年5万人の中で40年後に100歳以上となる人は26千人ほどいます。今の時点で捉えれば2060年人口は24千人しかいません。毎年千人が減少すると言っても650人までは、この高齢者層が亡くなることが原因となります。

       私は、人口減少と売上減少、人口ピラミッドと貸借対照表は性質が似ていると思っています。もし、売上減少が続き今後も回復が困難と思うと、通常は新製品開発、新技術の開発、新分野開拓などになると思います。人口減少で言えば、前述の残る24千人の層をシッカリしたピラミッドにすることと思います。具体的には移住もあり佐渡を強くする人材の育成、そして受け皿となる強みを生かした強い産業づくりだと思います。野口さんの言動は、常にその分野に言及していると感じて敬服しているところです。

       何十年も売上減少している企業が、現状の努力の延長で止めようと躍起になっても難しいです。小規模法制定の中であった、”下りのエスカレーターを必死に駆け上る事業者のイラスト”のとおりです。銀行に新しい計画をもっていくと、「それができるならば、このような企業にならなかったのではないですか?」と言われそうです。今は、企業であれば新製品など、人口で言えば24千人の層に着目すべきと思っています。

       元々、売上減少を止める、人口減少を止めるという守るための行動はなく、具体的には売上を増やすとか移住を増やすとか攻めの行動です。この攻めの活動が効を奏しても、当分の間は全体の減少は続きます。でも、新商品が売れ出していくときの社内は、その過程そのものが活気に満ち溢れます。移住が年500人にもなりながら、全体の減少の中で隠れ、努力や意気込みや喜びが社内である島内に満ちてこない現状に関係者は憂いを感じているのではないかと思っています。

      考えている過程をそのまま記載して長文になってしまいました。恐縮です。

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