人口戦略会議「人口ビジョン2100」の提言を計算してみた! ~日本全体と新潟県と佐渡の例~

By gkmyhn, 2024年4月21日

1「提言」内容の抜粋

令和6年1月にされた「提言」のメンバーは次の方で、提言の抜粋はその下に記載しました。

~提言抜粋~

〇現在1億 2400 万人の総人口も、このまま推移すると、年間 100 万人のペースで減っていき、わずか 76 年後の 2100 年には 6300 万人に半減すると推計されています。100 年近く前の 1930 年の総人口が同程度でしたので、単に昔に戻るかのようなイメージを持つかも知れませんが、それは事態の深刻さを過小評価するものです。

〇政府が取り組んできた少子化対策は、待機児童の解消や不妊治療の保険適用など一定の効果をあげた施策はあるものの、概して単発的・対症療法的だったと言わざるを得ません。

〇前述の「選択する未来」委員会は、少子化対策予算(家族関係支出)が他の OECD 諸国に比べると低水準にあることを問題視し、「2020 年頃を目途に早期の倍増を目指す」ことを提言しました。その後、政府は予算を増加させてきたものの、家族関係支出対 GDP 比(2019 年度)は1.7%で、スウェーデン(3.4%)の 2 分の1にとどまっています。

〇地方創生の取り組みも、少子化の流れを変えるという点では力不足であったことは否めません。

〇 出生率が高い水準にあるスウェーデンやフランスは、これまで何度も出生率が低下する状況に遭遇しましたが、そのたびに家族政策などの強化を図り、回復を果たしてきました。最近では、我が国同様に低出生率であったドイツが、若者世代の仕事と子育ての両立を可能とするような抜本的な働き方改革に取り組み、それもあって 2011 年に 1.36 だった出生率は 5 年間で 1.60(2016 年)にまで急上昇しました。

〇これまで我が国は官民の総力をあげて取り組んできたとは言えないのが実情です。もちろん、遅れはありますが、まだまだ挽回可能です。決して諦めず、世代を超えて取り組んでいかなければなりません。

〇政府も、「2030 年までがラストチャンスであり、我が国の持てる力を総動員し、少子化対策と経済
成長実現に不退転の決意で取り組まなければならない」(「こども未来戦略」(2023 年 12 月))
と、危機感を明らかにしています。

〇政府も民間も、人口減少の要因や対策について英知を結集して調査分析を行わず、その深刻な影響と予防の重要性について、国民へ十分な情報共有を図ってこなかったのではないか、ということです。

〇人口減少が将来引き起こす“重大な事態”について、経済界をはじめ民間へ、さらに国民へ積極的に情報を発信し、意識の共有を進めていく努力が十分になされてきたとは言えません。

〇基本的課題の第一は、政府も民間も、人口減少の要因や対策について英知を結集して調査分析を行わず、その深刻な影響と予防の重要性について、国民へ十分な情報共有を図ってこなかったのではないか、ということです。その第二は、若者、特に育児負担が集中している女性の意識や実態を重視し、政策に反映させるという姿勢が十分ではなかったのではないか、ということです。そして第三は、今を生きる「現世代」には、社会や地域をしっかりと「将来世代」に継承していくという点で、後世に対する重い責任があることを正面から問いかけてこなかったのではないか、ということです。

〇本提言では、今世紀の終わりにあたる 2100 年を視野に据えて、私たちが目指すべき目標を
提示しています。その第一は、総人口が“急激”かつ“止めどもなく”減少しつづける状態から脱
し、2100 年までに 8000 万人の水準で安定化させることによって、国民が確固たる将来展望が
持てるようにすることです。そして、第二は、現在より小さい人口規模であっても、多様性に富
んだ成長力のある社会を構築することです。

〇人口定常化が実現するための条件や意義について触れておきます。人口を定常化させるためには、出生率(2022 年 1.26)が 2.07 の人口置換水準にまで到達し、その後も継続することが条件となります。そして、この出生率への到達の可否や、到達する場合の時期によって、将来の社会の姿は大きく異なってきます。

 

2提言の「人口の定常化戦略」

(1)現状

社人研、未来の年表、そして私の将来推計人口は次のとおりです。

定常化戦略は、上表の人口減少のスピードを緩和させ、最終的に人口を安定させること(人口定常化)を目標とする戦略といいます。その方法として、提言書では次の4パターンを例示してあります。

次の項目で提言書で言っている「Bケース」を基に「日本」「新潟県」「佐渡」について計算してみました。なお、上表では「2040年以降は国際人口移動均衡」とあると記載されています。この点については、国際移動の男女別や年齢別の構成人数が不明のため私では再現できまません。そこで、日本の人口再生産が確実にできることが確認できればよいと考え、日本から出入りのない状況(封鎖人口)で計算してあります。

なお、このBケースでは、2060 年までに 2.07 に到達することが条件となり、そのためには、2040 年ごろに 1.6、2050 年ごろに 1.8 程度に到達することが望まれると提言書に記載があるため、そのように計算しました。

(2)定常化への計算結果

①日本の場合

その数値とグラフは次のとおりです。この数値に対して脚注にある外国人を加えれば8000万人の確保と、下にあるアニメーションのような安定した人口ピラミッドになります。

人口ピラミッドは次のようになります。アニメは150年分位を動かしています。

 

もし左のアニメgifが動いていない場合は(ここ)をクリックしてください。なお、アニメが滑らかな釣鐘状になっているのは、2040年から国際移動が均衡とある前提条件の内容がわからないため、国外との流出入がない(封鎖人口)として計算しているためです。したがって人口が定常化していく過程のイメージとしてとらえてください。

 

(3)定常化への大きな課題

次の表は、2020年時点の合計特殊出生率と、人口の置換え可能な出生率2.07にするために必要な新たな出生数を2020年時点の数値を基にして計算したものです。4,541,360人(年間908,272人)の出生数に新たに2,850,000人(570,000人)の出生が必要となりました。これだけの出生数が果たして可能になるのだろうかが課題です。特に、以下の「3(1)」に記載した理由で出生率の低い大都市でのアップがないと達成できません。大きな課題となるでしょう。果たして「異次元の少子化対策」の内容で、都会で出生ラッシュができるかをイメージしてみてください。

②新潟県の場合

国全体と同じように行えば次のように新潟県も定常化しました。なお、国は2020年人口の63.4%の人口8000万人のところで安定しましたが、もっと新潟県では低い状況でした。

しかし、計算した県外との人口移動がない状況(封鎖人口)は、今の新潟県では考えられません。そこで、これまでのように社会的移動がある状況で計算すると次とおりです。人口減少を遅らせる効果はありますが、人口の定常化は難しい状況でした。

③佐渡の場合

国同様の条件で行えば次のように人口は定常化します。しかし、現在の人口と比較すると定常化する人口は、新潟県よりも更に低い割合となりました。過疎地ほど、このような状況になるのでしょう。

しかし、佐渡でも新潟県と同様に人口流出がない状況(封鎖人口)は考えられません。そこで、これまでのように社会的移動がある状況で計算すると次とおりです。人口減少を遅らせる効果もあまりありませんでした。人口の流出が大きい地域では国同様のやり方では定常化は難しいようです。

3定常化戦略の難しさ

(1)地域間のズレ

前項の国、新潟県及び佐渡の計算でわかるように、国外との移動が少ない国段階では定常化戦略は有効でした。次のグラフは、全国市町村人口を多い方から並べたものです。全人口の8割は僅か3割弱の地域にいる状況です。いわゆる「2-8の原則」です。このことから、全体数値の貢献度を考えると出生率の低い大都市の率のアップが必要となります。

※グラフは昔の使用したものを再利用しているため数値が現在の数値とは異なります。他には使用しない方がよいでしょう。

 

(2)認識のズレ

次の図は現役のころの「地域づくり」事業の報告書からの抜粋です。過疎脱却に対する人々の意識にズレがあり、力が一本化していないことを示したものです。かなり昔のことですが、図の上部の「過疎脱却ライン」を「人口定常化ライン」と置き換えれば、今も同じ状況にあると感じています。

「沈みゆく船の中で皆さんの思うところが別々」の状況といえます。船旅を楽しくとか、そのためのイベントを多くと言ったり、自分が降りる港までは辿り着けるから大丈夫と思ったりしている状況にあると感じています。

(3)子育て支援のズレ

商品開発の例で、AかBかのどちらにしようわからない場合は「アンケート」です。より使い勝手がよいものにしたいがわからないなら面談しての「ヒアリング」でしょう。そして、未だに本人も気づかない商品を考えるならば「観察」でしょう。

家族同居の昔ならば、日常的な「困り事」がおきても誰かがフォローできました。核家族化が進むにつれ、「困り事」を「制度」で補ってきました。しかし、私の子ども達の子育てをみていると、まだまだフォローできないことが多いです。支援策の多くは、「あれば便利なもの、嬉しいもの」が多いですが、「無いと困る」ものが自分の子ども達の子育てを見ているとわかります。きっと今日も、何事もないことを願いつつ働き、でも今起きては困ることに限って起こって、その対応に悪戦苦闘しながら、職場への申し訳なさでいっぱいになる一日をおくっていることでしょう。

 

4始動した新しい動き

(1)「人口減少に関する懸賞論文」の募集にみる変化の兆し

公益財団法人 橋本財団では懸賞論文を募集していますが、その冒頭「開催にあたって」に次のような文章があります。人口減少の困り事に対して当面の対症療法ではない仕組みづくりを求める動きと思います。

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最近の日本における論評において、少しずつ人口問題の重大さが認識されてきました。 ~中略~ 多くの論説は、このようにならないために、日本人の人口を減少

させない方法、あるいは、総人口を減少させない方法 (外国人の移民を受け入れること)を説くものが多いようです。しかし、確率的に最も多い上記の状態に対して、どのようにするべきかを提案するものはあまりないのが現状です。今回の懸賞論文は、実際に高い確率で生じる、約50年後、2070年の日本社会(総人口8,700万人、うち外国人人口940万人の社会)を想定し、どのような社会システムを作るべきかを提案していただくものです。提案されたシステムが、今後50年間で実行できるようなものとしてください。

(2)「撤退と再興の農村戦略」(林直樹著)にみる新たな動き

「はじめに」の項に次のような語句や文章が記されています。新しい考え方と実践の動きと思いました。

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〇「活性化が難しい集落」のための集落づくりの参考書。現状維持にこだわらない「生き残り策」。本書の最も斬新な点:「撤退して再興する集落づくり」の導入。

〇「長い間、特産品づくりや都市農村交流といった活性化に挑戦してきたが、集落の衰退に歯止めがかからない」「一時的ににぎや

かになるだけのイベントに疑問を感じる」「数年先はさておき、数十年先となると、明るい姿を描くことができない」「活性化のためのまとまったマンパワーがの残っていない」といった集落も少なくないのではないか。

〇それにもかかわらず、山間地域の小集落の集落づくりでのそのことが論じられることはあまりない。よほど自信があるのか。タブーになっているのか。単なる無責任なのか。

〇本書の狙いは、あくまで「集落の生き残り」について考えることである。

〇本書の執筆では、「厳しい過疎地の集落づくりの入門書」となることを目指し……。

 

 

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